耐性淋菌とは?薬が効かない淋病が広がる日本の現状と対策

赤松 敬之(あかまつ たかゆき)

性感染症のひとつである淋病(淋菌感染症)は、かつて抗菌薬で容易に治療できる病気でした。
しかし近年、抗菌薬が効かない「耐性淋菌」が日本を含め世界中で広がり、WHOからも警鐘が鳴らされています。

本記事では、耐性淋菌の概要や危険性、日本で広がる背景、そして私たちができる予防・対策について解説します。

淋菌とは?淋病が引き起こす症状

淋菌は、性感染症である「淋菌感染症(淋病)」の原因菌です。

  • 感染部位:尿道・子宮頸部・咽頭・直腸・結膜など
  • 男性の症状:尿道炎(排尿時の痛み、膿の排出)
  • 女性の症状:子宮頸管炎(おりものの異常、不正出血、下腹部痛)
  • 重症例:結膜炎(膿漏眼)、骨盤内炎症、不妊症、敗血症

淋病は比較的軽い症状のこともありますが、放置すると不妊症全身感染に進行することがあります。

効かない薬が増えている?多剤耐性淋菌とは

淋病は世界で年間約8,000万人が感染しているといわれます。
1990年代までは「キノロン系抗菌薬」の単回投与で治療できました。

しかしその後、キノロン系抗菌薬が効かない淋菌が世界中で急増しました。
実際に、淋菌の多くがキノロンに対して耐性を持つようになり、この薬では治せないケースが当たり前になってきているのです。

  • アメリカでは約5人に1人(20%以上)
  • ヨーロッパでは約2人に1人(50%近く)
  • 日本では8割以上(80%超)

現在はセフトリアキソン(第3世代セフェム系抗菌薬)が第一選択薬ですが、すでに5%程度が耐性化していると報告されています。

近い将来、外来治療が難しくなる可能性が現実味を帯びています。

なぜ耐性淋菌が広がっているのか

耐性淋菌が増加する背景には、以下の要因が考えられます。

  • 不特定多数との性行為:SNSの普及やHIV警戒感の低下により感染拡大
  • 海外渡航の増加:耐性菌が国境を越えて拡散
  • オーラルセックスの普及:咽頭感染(淋菌性咽頭炎)の増加
  • 抗菌薬の乱用:広域抗菌薬の使用により非耐性菌が減少 → 耐性菌が優位に
  • 畜産・水産での抗菌薬使用:環境を通じて耐性菌拡散の一因に

耐性淋菌への対策は?

医療現場での対策

  • 検査と感受性試験の徹底:菌の性質に応じた薬を選択
  • 手指衛生:医療従事者を介した感染拡大を防ぐ
  • WHO推奨の5つのタイミングでの手指消毒
    • 患者に触れる前
    • 清潔操作の前
    • 体液曝露の恐れがあるとき
    • 患者に触れたあと
    • 患者周囲の環境に触れたあと

アルコール手指消毒は短時間で効果的、特別な設備も不要で臨床現場に適しています。

社会全体での対策

  • 抗菌薬の適正使用:人や動物の感染症治療以外での使用を減らす
  • 新薬開発の推進:創薬を支援する仕組み作りが必要

私たちにできる耐性淋菌の予防

耐性淋菌の予防には、以下のような取り組みが重要となります。

  • コンドームを正しく使用する(膣性交だけでなく口腔・肛門性交でも必須)
  • 不特定多数との性行為を避ける
  • 性感染症の定期検査を受ける(自覚症状がなくても感染している場合あり)
  • パートナーと一緒に検査・治療を受ける → ピンポン感染防止
  • 抗菌薬を自己判断で使わない

まとめ

  • 耐性淋菌は薬が効きにくくなった淋菌で、日本は「薬剤耐性化の先進国」とも呼ばれる状況
  • 現在の第一選択薬セフトリアキソンにも耐性が広がりつつあり、治療困難化が懸念される
  • 背景には不特定多数との性行為、渡航、抗菌薬乱用など複数要因がある
  • 予防の基本はコンドーム・定期検査・抗菌薬の適正使用
  • 社会全体での感染対策と新薬開発が求められている

性感染症は「自分には関係ない」と思っている間に拡大していきます。
耐性淋菌の脅威を知り、できることから予防を始めましょう。

参考文献

少しでも違和感を感じたら、
一度検査を受けてみませんか?
西梅田シティクリニックで受診をしよう。

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監修医師紹介
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
医療法人 星敬会 理事長
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