「LGBTQ+と性の健康」正しい知識で自分のからだを守る

赤松 敬之(あかまつ たかゆき)

性のあり方にはさまざまな形があり、それぞれの生き方が尊重されることが大切です。LGBTQ+という言葉には、多様な性的指向や性自認を持つ人々が含まれており、その一人ひとりが自分らしく健康に暮らせる社会が求められています。

この記事では、LGBTQ+と性感染症の関係、感染のリスク、検査に踏み出しにくい理由、そして安心して医療を受けるために知っておきたいことを、わかりやすくお伝えします。

LGBTQ+と性感染症の関係性とは?―なぜ注目されているのか

LGBTQ+とは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の性と自認する性が異なる人)など、多様な性のあり方を持つ人々を包括的に指す言葉です。

近年、このLGBTQ+の人々と性感染症(性行為によって感染する病気)の関係に注目が集まっています。
その理由の一つは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス/エイズの原因ウイルス)などの新規感染者において、同性間の性的接触による感染が多く報告されているためです。
例えば日本では、2023年に報告された新規HIV感染の約66%が男性同士の性行為によるものでした。
このように、LGBTQ+の人々の性の健康は公衆衛生上の重要な課題となっています。

また、LGBTQ+当事者の人口は決して少なくありません。
国内の調査では全体の約9%がLGBTQ+層に該当すると報告されており、これは左利きやAB型血液の人と同程度の割合です。

しかし従来、偏見や差別のため自分から声を上げにくく、その健康ニーズが軽視されがちでした。
近年ようやく社会の理解が進み、多様な性のあり方を前提に医療を見直す動きが出てきています。
性感染症の予防・対策においてもLGBTQ+への支援が重視されるようになりました。

例えば近年、ゲイやバイセクシュアル男性の間でクラミジアや淋菌(淋病)が直腸に感染するケースが増えており、それがHIV感染リスクを高めることが明らかになったため改めて注意喚起されています。
こうした背景から、LGBTQ+と性感染症の関係性が重要なテーマとして注目されているのです。

妊娠しない=安心ではない!全ての性行為でSTI対策が必須

同性間の性行為でも、異性愛者と同様に HIV梅毒クラミジア淋菌、HPV(ヒトパピローマウイルス) などに感染する可能性があります。
男性同士では、特にアナルセックスやオーラルセックスによって、肛門や口の粘膜を介して感染しやすくなります。
肛門の粘膜は傷つきやすく、ウイルスや細菌が入り込みやすい場所です。
また、コンドームをつけないセックスはこれらの感染リスクを格段に高めます。

女性同士でも油断は禁物です。
陰茎の挿入がなくても、皮膚や粘膜同士の接触でHPV、クラミジア淋菌などに感染します。
HPVは子宮頸がんや尖圭コンジローマの原因となり、レズビアンの方々は、HPVワクチンの接種率が低い傾向にあります。
これは医療機関での情報提供が不十分であることが影響しています。
そのため、HPV関連の疾患、特に子宮頸がんのリスクが高まる可能性があります。
HIVは女性間での感染は稀ですが、報告された例もあり、ゼロではありません。

なぜ「妊娠しないから予防は不要」と考える人がいるのか

  • 避妊目的の誤解
    「コンドームは避妊のためだけ」と考えがちですが、性感染症の予防にも欠かせません。
    精液や膣分泌液、血液などの体液を介して、クラミジア、淋病、梅毒、HIV、ヘルペス、HPVなどの病原体が感染します。
    これらは妊娠とは無関係に広がるため、性行為の際にはコンドームを正しく使用することが重要です。
  • 自覚症状が出にくいこと
    クラミジアや淋菌、HPVなどはしばしば無症状で進行し、気づかないうちに重大な病気(PID=骨盤炎症性疾患、不妊、がんなど)を引き起こすことがあります。
  • 情報や教育の不足
    同性カップルに特化した性教育・性情報が少なく、自分たちに関係ないと思ってしまう人が多いです。
  • スティグマや心理的ハードル
    「信頼できる相手だから大丈夫」「バリアは雰囲気が壊れる」といった心理的理由や、性感染症を話題にすることへの抵抗感があります。

妊娠しなくても、性感染症から身を守るためには予防が絶対に必要です。
「コンドームを使わない」「検査を受けない」といった選択は、自分自身とパートナーの健康を軽視するリスクがあります。
性感染症は誰にでも感染する可能性があり、予防と定期的な検査が重要です。
自分と大切な人の健康を守るために、性感染症の予防と早期発見・治療に努めましょう。

「検査したいけど不安…」LGBTQ+が直面しやすい心理的ハードル

LGBTQ+の人々が性感染症の検査を受けたいと思っても、いくつか特有の心理的な障壁があります。
まず挙げられるのは、偏見や差別への不安です。

医療機関で「自分は同性愛者(あるいはトランスジェンダー)である」と説明したとき、否定的な反応や冷たい対応をされるのでは…と不安に感じる方も少なくありません。
また周囲に自身のセクシュアリティを公表していない場合、検査を受けに行くことで誰かに知られてしまうのではないかというアウティング(本人の許可なく他者に暴露されてしまうこと)への心配も生じやすくなります。

例えば、病院で保険証を提示したり問診票に性別を記入する際、戸籍上の性と自分の性自認が異なるトランスジェンダーの人にとっては、それだけで戸惑いや不安を感じることがあります。
さらに初めて受診する病院で見た目の性別と保険証の性別が違うと、スタッフに本人確認を求められ、居心地の悪い思いをすることもあります。
待合室で名前をフルネームで呼ばれることで周囲に自分のセクシュアリティを知られてしまわないか不安、という声もあります。

このようにプライバシー面での懸念は検査への大きなハードルとなります。
また、「性感染症にかかるのは良くないことをした証拠だ」といった社会的偏見による羞恥心や、「自分ばかりリスクが高いのでは」というスティグマ(社会的な偏見)も心理的負担になります。

誰にとっても性病の検査を受けるのは勇気のいることですが、LGBTQ+の人々の場合はそれに加えて自分のセクシュアリティに関する悩みや周囲の無理解といった重荷を背負いがちです。
そのため、本当は検査を受けて安心したいと思っていても、一歩を踏み出せず検査を先延ばしにしてしまうこともあります。

LGBTQ+フレンドリーな検査・相談の場とは?


こうした心理的ハードルを和らげ、安心して検査を受けられるよう工夫された場所がLGBTQ+フレンドリーな検査・相談の場です。
これはLGBTQ+当事者が安心して性感染症の検査や健康相談を受けられるよう配慮された医療機関や検査環境を指します。

例えば各地の保健所では、無料・匿名でHIV検査(必要に応じて、梅毒やクラミジアなど他の性感染症の検査も実施)を実施しており、名前ではなく番号で呼ぶ、結果説明を個室で行う、といったプライバシーに配慮した仕組みがあります。

自治体によっては検査に関する電話相談窓口を設けたり、SNS(たとえばLINEなど)で匿名質問を受け付けたりして、検査へ踏み出す背中を押す工夫をしているところもあります。
また、都市部を中心に「LGBTQ+フレンドリー」を掲げる専門クリニックも増えてきました。
そのようなクリニックではスタッフ全員に多様な性(性的指向や性自認)に関する教育を徹底し、保険証を使わず匿名で受診することも可能です。
呼び出しは番号で行い、待合室は半個室にして会話の内容が周囲に聞こえないようにするなどプライバシー保護にも細心の注意を払っています。

検査方法も工夫されており、性器だけでなく喉や肛門の検体を自身で採取できるようにして、同性間の性交渉で感染リスクが高い部位もきちんとカバーしています。
さらにHIV予防の内服薬やHPVワクチン接種など、LGBTQ+の人々のニーズに合わせた医療サービスを提供するクリニックもあります。
こうしたフレンドリーな検査・相談の場を活用すれば、自分のセクシュアリティを過度に気にせず、性の健康を守るための一歩を、より安心して踏み出せるでしょう。

多様な性と健康を支える医療のかたち

検査


性感染症(STI)のリスクや不安は、誰にでも起こり得る問題であり、特別なことではありません。
大切なのは、自分自身の健康を守るために、症状がなくても定期的に検査を受けることです。
検査は早期発見につながり、必要な対策を取るための第一歩となります。
また、もし不安や疑問を感じたときは、決して一人で抱え込まず、信頼できる専門家に相談しましょう。

正しい知識を持つことで、予防策を徹底でき、健康リスクを減らすことができます。
不安な症状や気になることがあれば、早期に医療機関を受診することが重要です。
自分や相手の健康を守るために、検査と予防を積極的に行い、必要なサポートを受けましょう。

参考文献


少しでも違和感を感じたら、
一度検査を受けてみませんか?
西梅田シティクリニックで受診をしよう。

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監修医師紹介
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
医療法人 星敬会 理事長
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