性病の知識

性交渉をしていなくても感染リスクのある「トリコモナス症」

赤松 敬之(あかまつ たかゆき)

「性交渉をしていないのに、性病の症状がある」
感染機会の心当たりがなく、不安に思うかもしれません。
しかし、性病の中には性交渉をしていなくても感染するものもあります。
そのうちの一つが「トリコモナス症」です。

トリコモナス症とは?

トリコモナス症とは、トリコモナス原虫と呼ばれる微生物が性器に入り込み、炎症を引き起こす性感染症です。
男性の場合は前立腺や精のう、尿道に寄生し、女性の場合は膣内、子宮頚管、尿道などに寄生します。

女性の膣や子宮頚管、男性の前立腺や精のうに寄生しているトリコモナス原虫が膣分泌液や精液を介して感染します。
性交渉による感染が最も多い感染経路とされますが、トリコモナス原虫は水の中でも数時間生きることができ、湿気のある環境・一定温度の環境を好むとされています。
そのため下着やタオルの共用、トイレの便器、浴槽で感染する可能性もあり、性交渉の経験がない女性や幼児が感染することもあるのです。

トリコモナス原虫

トリコモナス原虫は0.1㎜ほどの、顕微鏡でやっと見つけられるくらいの大きさの寄生虫です。
運動、摂食、消化・代謝、生殖など、「生き物」としての生命活動を行っています。

ヒトに寄生するトリコモナスは、膣粘膜細胞にあるグリコーゲン(糖)を栄養分として生きています。
通常、健康な女性の膣内には乳酸菌が常在菌として存在しており、これがグリコーゲンを分解して乳酸を生成することで膣内を酸性に保っています。
ほとんどの菌は酸性の環境では生きられないとされているため、このような乳酸菌のはたらきが悪い菌の侵入・繁殖を防いでくれているのです。
しかし、トリコモナス原虫が乳酸菌の栄養分であるグリコーゲンを横取りすることで、乳酸菌が乳酸を生成できなくなってしまいます。
すると、膣内を酸性に保てなくなり、悪臭の原因となる嫌気性菌などが侵入・繫殖してしまい、おりものの増加や悪臭と言った症状に繋がります。

どんな症状が現れる?

トリコモナス症に感染すると以下のような症状が現れることがあります。
無症状の場合もあり、定期的な性病検査で感染の有無を把握することが大切です。

男性

  • 尿道からの膿
  • 排尿時の痛み
  • 尿道の痛み・かゆみ

男性の場合、尿道炎や前立腺炎などのような症状が現れることがありますが、ほとんどの場合が無症状とされています。
尿道に寄生したトリコモナス原虫は排尿によって体外へ排出されやすく、トリコモナス症に感染している男性は、原虫が前立腺や精のうに寄生しているケースが多いです。
感染したまま治療せず放置してしまうと、前立腺炎や精巣上体炎を引き起こす恐れがあります。
精巣上体は精子の通り道である器官で、炎症が起こると精子の通り道がつまって不妊症の原因にもなります。

女性

  • 泡状で悪臭の強いおりものの増加
  • 外陰部や膣の痛み・かゆみ
  • 排尿時の痛み
  • 性交痛

女性は感染者のおよそ半数が無症状とされています。
妊娠中は膣の自浄作用が低下するため感染しやすいとされ、感染した場合には早産や流産のリスクが高くなるともいわれています。
感染を放置すると炎症が卵管にまでおよび、卵管炎や骨盤内炎症性疾患などを引き起こすだけでなく、不妊の原因にもなります。

トリコモナス症は非常に感染しやすく、パートナーとのピンポン感染を頻繁に引き起こす性病でもあります。

ピンポン感染とは

お互いにうつしたりうつされたりを繰り返すこと。
性感染症に罹っている人は性交渉によってパートナーに病気をうつす可能性があります。
パートナーに感染してしまった場合、本人が治療・完治していてもパートナーが治療していないと再び感染してしまうことになります。
こうした状態を「ピンポン感染」といいます。

男性感染者のほとんど・女性感染者のおよそ半数が無症状とされ、感染に気付かず放置してしまうケースが多いとされています。
未治療のまま時間が経つと症状が悪化し、不妊や流産の原因にもなります。

トリコモナス症の治療法

トリコモナス症の治療法には「メトロニダゾール(フラジール)」などの抗原虫剤の内服や、女性の場合は膣剤を使用することもあります。

経口薬による全身投与での治療が主流で、ほとんどの場合、抗原虫剤を10日間ほど服用します。
経口投薬が困難な女性には膣剤単独療法を行ったり、場合によっては経口薬と膣剤を併用することもあります。

抗原虫剤服用中はアルコールの摂取は禁物です。
抗原虫剤服用中にアルコールを摂取すると、悪心や頭痛、嘔吐、動悸、紅潮などの症状が強く現れるため、安全に治療を行うためにも、抗原虫剤服用中はアルコール摂取を控えましょう。

トリコモナス症を予防する

トリコモナス症にかからないために、以下の点を留意しておきましょう。

  • 不特定多数との性交渉を避ける
  • 性交渉の際は避妊具を使用する
  • 体調が優れないときの性交渉は避ける
  • 不衛生なものと患部が接触しないようにする

他にもタオルや下着の共用は控え、トイレに行くときは便座シートを使ったり除菌シートで拭いてから利用するようにしましょう。
過剰に気にする必要はありませんが、家族や身近な人に感染した人がいる場合には身の回りの衛生面を意識すると良いでしょう。

上記はトリコモナス症をはじめとする性感染症の感染リスクを下げることに繋がります。
性感染症は治療をしないと治ることはありません。
少しでも違和感や心当たりがあれば、検査を受け、早期発見・早期治療に努めましょう。

西梅田シティクリニックではお気軽に性病検査を受けることができます。
予防のための定期検査やブライダルチェックなど、症状がなくても検査が可能です。
ご不安なこと、ご不明な点等ございましたらお気軽にご相談ください。

◆性感染症内科/西梅田シティクリニック:https://nishiumeda.city-cli

監修医師紹介
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
赤松 敬之(あかまつ たかゆき)
医療法人 星敬会 理事長
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